先入観を超える決断
数か月前に目にした一つの記事が、今も強く印象に残っています。輸入車販売大手のヤナセが、中国の比亜迪(BYD)のディーラー事業に参入したという記事です。
私が心を動かされたのは、ヤナセの森田社長が「BYDは日本で必ず売れる」と予測したからではありません。日本の自動車市場が変化する可能性を見据え、他社がまだ慎重に様子を見ている段階で、自ら新しい事業に踏み出したことです。
記事を読み進めると、森田社長が以前からEVの普及に関心を持っていたことが分かります。EVを単なる新商品としてではなく、自動車販売店のビジネスモデルそのものを変える可能性のある存在として捉えていたのではないでしょうか。
その構想は、実際の店舗運営へと移されました。今年7月11日、横浜市磯子区に、ヤナセ初のBYD専売店「BYD AUTO 横浜南」が開業しました。9月の報道によると、開業後の来店客数やホームページの閲覧数は、他のBYD店舗の平均を上回っているそうです。
もちろん、EVが今後必ず日本市場の主流になるとは限りません。充電設備、中古車価格、消費者の好みなど、解決すべき課題もあります。それでも森田社長は、市場が十分に成熟するまで待つのではなく、実際に販売しながら顧客の反応やニーズをつかもうとしています。先行者利益を目指すだけではなく、実践を通じて誰よりも早く学ぼうとする姿勢だと感じました。
ヤナセは長年、メルセデス・ベンツをはじめとする欧州の高級車を扱い、ブランドへの厚い信頼を築いてきました。そのヤナセが中国のBYDを取り扱うことに対して、社内外から慎重な意見が出たことも想像できます。しかし森田社長は、「中国製か、欧州製か」という従来のイメージだけで判断せず、BYDの技術力と将来性を自分の目で確かめようとしたのでしょう。
私が最も感心したのは、中国メーカーと組むリスクを承知したうえで、自らの判断に責任を持ち、新しい市場へ踏み出したことです。経営者の判断とは、正解が見えてから選ぶことではないのだと思います。まだ答えが見えない段階で、可能性とリスクの両方を見極め、それでも一歩を踏み出す。その決断には、知識や経験だけでなく、責任を引き受ける勇気が必要です。
森田社長の、既成概念にとらわれない判断力と、不確実な状況の中でも前へ進む勇気に、私は心から敬意を表したいと思います。

