もう一つの甲子園から

8月、皆さまはどのように過ごされましたか。夏の甲子園で高校野球を観戦した方も多いと思いますが、私はテレビで、もう一つの「甲子園」に3時間じっくりと見入っていました。それは「第19回書道パフォーマンス甲子園」です。

巨大な紙の上を高校生たちが駆け回り、音楽に合わせて筆を運び、ときには踊りながら一つの作品を完成させていく。その真剣な表情と、全身を使って書かれる文字の迫力に、思わず画面へ引き込まれました。墨が飛び散る勢い、仲間同士の掛け声、完成した作品を掲げる瞬間には、従来の書道とはひと味違う熱気がありました。

この大会は、「日本一の紙のまち」と呼ばれる愛媛県四国中央市で開催されています。地元の三島高校書道部が「書道で町を元気にしたい」と、地域の催しで大きな紙に文字を書いたことが始まりです。2008年に第1回大会が開かれ、今年で19回目を迎えました。今回は、全国100校を超える応募の中から、予選を通過した22校が本戦に出場しました。

1チーム12人以内、制限時間6分。縦4メートル、横6メートルの巨大な紙に作品を仕上げます。審査されるのは、文字の美しさや紙面構成、筆遣いだけではありません。演技の物語性や独創性、チームの一体感、身体表現なども評価されます。

書道の源流は中国にあります。それが日本へ伝わり、漢字だけでなく、かな文字や和様の書として独自に発展しました。中国から伝わった文化をそのまま受け継ぐだけではなく、日本人は長い年月をかけて、自分たちの感性や暮らしに合う形へ磨き上げてきました。私は、日本には、受け継いだものを丁寧に育て、完成度を「一から十」へ高めていく優れた力があると感じます。書道パフォーマンスも、その力をよく表しているのではないでしょうか。

スマートフォンやパソコンで、誰もが同じように整った文字を瞬時に打てる時代です。それでも、なぜ書道が必要なのでしょう。筆で書かれた線には、書き手の呼吸、手先や指先の力の入れ方、迷いや決意まで表れます。同じ字を書いても、二つとして同じ作品にはなりません。便利さではデジタルにかないませんが、人の心や個性を伝えるという点では、手書きにしかない価値があります。

さらに高校生たちは、伝統的な書道に音楽やダンスを加え、見る人も楽しめる新しい表現へと進化させました。伝統を守るとは、昔の形を変えずに残すことだけではありません。その本質を大切にしながら、今の時代に届く形へ育てることなのだと思います。

これは、商品づくりにも通じます。機能や価格は比較できますが、その土地の歴史、作り手の技、素材に込められた思いは、簡単には真似できません。そこに文化があれば、商品は単なる「物」ではなく、人に語りたくなる物語を持ちます。文化こそ、長く愛されるブランドの原点ではないでしょうか。